韓国の巨大年金はサムスン電子とSKハイニックスをどこまで動かせるか
国民年金公団は、サムスン電子とSKハイニックスの株式をそれぞれ7〜8%保有しています。これにより、両社で第2位の株主となっています。 この規模の持ち分では、どちらの会社の経営も決められません。しかし国民年金公団は、3つの経路で両社の株価と意思決定に影響を与えられます。株主総会での議決権行使、大規模な売買、そして保有状況の報告です。
国民年金公団とはどのような投資家か
国民年金公団(NPS)は韓国の公的年金です。韓国国民は加入が義務付けられています。基金の運用は国民年金公団の基金運用本部が担っています。2026年6月末の基金規模は1,866兆ウォンでした。上半期の運用収益率は27.22%(暫定値)です。
国民年金公団は、その規模から韓国株式市場の「クジラ」と呼ばれています。
- 2026年2月末時点で、国民年金公団は395.1兆ウォンの韓国株を保有していました。KOSPI(韓国の代表的な株価指数)の時価総額の約7.7%にあたります。
- 6月末時点で、韓国株は基金全体の29.1%を占めていました。
- 10月15日時点で、国民年金公団が5%以上を保有する上場企業は287社でした。
韓国株の保有は2社に大きく偏っています。国民年金公団の韓国株保有に占めるサムスン電子とSKハイニックスの比率は、3月末の40.4%から7月初めには55.7%に上がりました。上半期に両社の株価が急騰したためです。このため、国民年金公団の韓国株の話は、多くの部分がこの2社の話になります。
持ち分で見ると:両社で第2位株主
- サムスン電子: 筆頭株主はサムスン生命保険(8.51%)です。サムスン物産や李在鎔(イ・ジェヨン)会長を含む系列会社と親族の持ち分を合わせると19.84%になります(2025年事業報告書時点)。国民年金公団は7.84%(10月15日)で、単独株主として第2位です。
- SKハイニックス: 筆頭株主はSKスクエア(約20%)です。SKグループの持株会社構造の一部です。国民年金公団は7.32%(10月15日)で、第2位株主です。
韓国の大手企業グループは、系列会社が互いに株式を持ち合う構造でできています。約20%前後の持ち分で支配権を維持しています。国民年金公団の持ち分は、こうしたグループの持ち分より小さいです。
外国人投資家全体では、より多くを保有しています。サムスン電子の46.41%(10月2日)、SKハイニックスの約50%(10月初めの報道)です。ただしこの数字は、非常に多くの海外の機関や個人を合わせたものです。彼らが一つの意思で動くわけではありません。一方、国民年金公団は単一の投資家で、意思決定の仕組みも一つです。
経路1:株主総会での議決権
国民年金公団は、両社の株主総会で議決権の約7〜8%を直接行使します。取締役の選任、役員報酬の上限、合併の承認といった議案では、単独株主として大きな票です。
議決権の行使方法は基金運用本部が決めます。争点のある議案は、外部専門家で構成する受託者責任専門委員会が審議します。国民年金公団は2018年にスチュワードシップ・コード(機関投資家が投資先企業の意思決定に責任をもって関わることを求める原則)を導入しました。議案ごとの賛否も開示しています。
ただし、この議決権の力には限界があります。両社とも、筆頭株主グループは国民年金公団の2倍を超える議決権を持っています。国民年金公団の票は、筆頭株主グループと他の株主の意見が分かれたときに、結果を左右できる大きさです。
経路2:売買の規模
2つ目の経路は売買です。両社は国民年金公団の韓国株保有の半分以上を占めています。このため、国民年金公団が韓国株の配分を増やしたり減らしたりするたびに、この2銘柄で最も大きな売買が生じます。
国民年金公団は毎年、資産ごとの目標比率を決めます。2026年5月28日、基金運用委員会は韓国株の目標比率を14.9%から20.8%に引き上げました。実際の比率が許容範囲を外れると、国民年金公団は株式を買い増したり減らしたりして比率を戻します。これをリバランスと呼びます。同じ会議では、市場への影響を和らげるため、韓国株の許容範囲を一時的に広げました。リバランスの1日あたりの最大売買量も減らしました。許容範囲の数値は開示していません。
持ち分が大きいため、株価の変動は保有評価額にも大きく響きます。10月15日の持ち分で計算すると、サムスン電子株が10,000ウォン動くごとに、国民年金公団の保有評価額は約4.6兆ウォン変わります。SKハイニックス株が100,000ウォン動くごとに、約5.3兆ウォン変わります。
実際の売買は、ルールだけで決まるわけではありません。7月にKOSPIが20%超下落したとき、市場では国民年金公団の大規模な売りが懸念されました。実際には、年金基金(国民年金公団と、その他の年金・共済基金を含む区分)は7月の1か月間にKOSPIで9,905億ウォンを純買いしました。大半は国民年金公団によるものと推定されます。買いは7月28日から月末までの4日間に集中しました。銘柄別では、大きく下落したSKハイニックスを1.38兆ウォン純買いしました。アナリストは、株価下落で保有評価額が減ったため、目標比率を保つために売る必要のある株式の量も減ったと指摘しました。
この出来事は、急落局面で国民年金公団が買い手側に回りうることを示しています。毎回そうなるという意味ではありません。売買の方向は、その時点の実際の比率、目標比率、許容範囲によって決まります。
経路3:報告が発するシグナル
3つ目の経路は情報です。韓国では、上場企業の株式を5%以上保有する投資家は、持ち分が1ポイント以上変動するとDART(金融監督院の電子公示システム)に報告しなければなりません。国民年金公団が両社の持ち分を増減させた記録は、この報告を通じて公開されます。市場参加者はこれを見て、国民年金公団の方向性を読み取ります。
持ち分が10%を超えると、短期売買差益の返還などのインサイダー規制が適用されます。買ってから6か月以内に処分した株式で得た利益を、会社に返還しなければならない場合があるという意味です。こうした規制により、国民年金公団が特定の企業の持ち分を大きく引き上げることは難しくなっています。
影響力の限界
国民年金公団の影響力は大きいものの、その限界ははっきりしています。
- 持ち分: 両社とも、筆頭株主グループの持ち分は国民年金公団より大きいです。
- 売買の流れ: 外国人投資家の売買規模の方が大きいです。9月1日から10月2日までに、外国人投資家はKOSPIで20.305兆ウォンを純売りしました。年金基金の7月の純買い(9,905億ウォン)の20倍を超えます。
- 投資原則: 国民年金公団が目指すのは、年金を支払うための長期的な収益です。特定企業の株価を支えることや、経営に直接介入することは目的ではありません。
まとめると、国民年金公団は、単独でどちらかの会社の針路を決める投資家ではありません。むしろ、株主総会で株主の意見が分かれたときには結果に、市場が大きく動くときには方向に、重みを加えうる投資家です。
海外投資家にとって国民年金公団が別に重要な理由
他の大規模な公的年金と比べると、国民年金公団は独特の位置にあります。
- 米国: 社会保障信託基金(Social Security Trust Fund)は、法律により米財務省が発行する特別債だけに投資します。株式は保有していません。
- ノルウェー: 世界最大の政府系ファンドである政府年金基金グローバル(GPFG)は、ノルウェー国外の株式と債券だけに投資します。
- 日本: 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は日本株を多く保有しています。しかし議決権を直接行使せず、外部の運用会社に委ねています。GPIFは、企業経営に直接影響を与えることを避けるためだと説明しています。
国民年金公団は、自国を代表する2社の第2位株主です。自ら議決権を行使し、市場の流れに影響しうる規模で売買します。さらに、国民年金公団の資産配分を決める基金運用委員会の委員長は保健福祉部長官です。今年1月のリバランス停止と5月の目標比率引き上げは、いずれもこの委員会が決めました。
したがって、サムスン電子やSKハイニックスに投資する海外投資家にとって、国民年金公団の決定は、業績や半導体サイクルと並ぶ、これらの銘柄のもう一つの要因です。
海外投資家が情報を得られる場所
- DART: 国民年金公団の持ち分変動に関する報告
- 国民年金公団基金運用本部のウェブサイト: 株主総会での議決権行使記録、四半期・年間の収益率
- 基金運用委員会の発表: 翌年の資産別目標比率(通常5月または6月)
出典: 国民年金公団基金運用本部(2026年上半期の暫定運用実績)、保健福祉部(第5回基金運用委員会、2026年5月28日)、FnGuide(国民年金公団が5%以上を保有する上場企業数)、韓国取引所(投資家別売買動向)、金融監督院DART(サムスン電子2025年事業報告書)、米議会調査局(社会保障信託基金の投資)、GPIFスチュワードシップ方針(2025年12月)。株価: 2026年5月まではNextradeでの取引を含むKRX日足、6月以降はKRX通常取引の終値。写真: 国民年金公団、国民年金公団ウェブサイト。
情報提供のみを目的としており、投資助言ではありません。
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